「部屋が片付けられない」「いつも散らかってしまう」――そんな悩みを抱えている人に対して、「だらしない」「甘えている」といった言葉が投げかけられることがあります。しかし、片付けられない背景には、脳の特性が関係している場合が少なくありません。
今回は、片付けが苦手な理由を脳科学的な視点から理解し、その特性に合わせた具体的な部屋作りの方法を解説します。
片付けられない背景にある脳の特性

片付けができないことを性格や努力不足のせいにする前に、脳の働き方の違いを理解することが重要です。
ADHDと片付けの困難
ADHD(注意欠如多動性障害)の特性を持つ人は、片付けに特有の困難を抱えています。注意が散漫になりやすく、一つの作業を最後まで続けることが難しい、物の置き場所を覚えられない、優先順位をつけるのが苦手といった特徴があります。
これは怠けているわけではなく、脳の実行機能に関わる部分の働き方の違いによるものです。
ASDと片付けの困難
ASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つ人も、片付けに独特の課題があります。変化への抵抗が強く、一度決めた配置を変えられない、視覚的な刺激に敏感で物が見えていないと不安になる、完璧主義で中途半端な状態に耐えられないといった傾向が見られます。
脳の疲労と片付け能力
発達障害の診断がなくても、慢性的なストレスや疲労によって脳の実行機能が低下することがあります。仕事や人間関係で疲弊していると、判断力や計画性が必要な片付けは後回しになります。
一般的な片付け方法が効かない理由
書店に並ぶ片付け本の多くは、定型発達の人向けに書かれています。そのため、脳の特性が異なる人には効果がないどころか、かえって負担になることもあります。
「一気に片付ける」は難しい
集中力を長時間維持することが困難な人にとって、休日を使って一気に片付けるという方法は現実的ではありません。途中で注意が逸れたり、疲れて投げ出したりして、かえって散らかる結果になります。
「見えない収納」は機能しない
引き出しや扉のある収納に物をしまうと、存在を忘れてしまう人もいます。視覚的に見えていないと、その物があることを認識できないためです。
「適切な場所に戻す」ができない
物の定位置を決めても、その場所を覚えられない、戻す手順が多すぎて面倒になる、そもそも「適切な場所」という概念が曖昧で判断できないといった理由で、結局元に戻せません。
脳の特性に合わせた部屋作りの基本
従来の片付け方法を捨て、自分の脳の働き方に合わせた環境を作ることが重要です。
認知負荷を減らす
片付けに必要な判断や記憶の負担を可能な限り減らします。物の量を減らす、収納方法をシンプルにする、ルールを最小限にするといった工夫が効果的です。
視覚的に分かりやすくする
何がどこにあるか、一目で分かる状態を作ります。透明な容器を使う、ラベルを貼る、色分けするなど、視覚情報を活用します。
動線に合わせて配置する
理想の配置ではなく、実際の行動パターンに合わせて物を置きます。よく使う物は手の届く場所に、使う場所の近くに置くことで、戻す手間を減らします。
具体的な対策と工夫
ここからは、実践的な方法を紹介します。
ワンアクション収納を徹底する
物を収納する際の動作を1回で済むようにします。例えば、洋服は畳まずに掛けるだけ、書類はファイリングせず箱に入れるだけ、といった具合です。
蓋を開ける、引き出しを開けるという動作が1つ増えるだけで、戻すハードルは大幅に上がります。
「とりあえずボックス」を設置
片付ける余裕がない時のために、「とりあえず入れておく箱」を部屋の数カ所に置きます。完全に散らかるよりは、箱に入っている方が管理しやすくなります。
定期的に箱の中身を整理する必要はありますが、毎日きちんと片付けるよりも現実的です。
使用頻度で収納場所を決める
毎日使う物、週に数回使う物、月に1回程度使う物で、収納場所を分けます。使用頻度の高い物ほど、取り出しやすい場所に配置します。
物の量を減らす
根本的な解決として、所有する物の量を減らすことは非常に効果的です。物が少なければ、片付けの負担も散らかる量も減ります。
判断に迷う物は、一旦「保留ボックス」に入れて別の場所に置いておき、一定期間使わなければ処分するというルールを設けると決断しやすくなります。
デジタル化できる物は紙を捨てる
書類や本など、デジタル化できる物はスキャンしてデータで保管します。物理的な物が減れば、管理の手間も大幅に削減できます。
定位置を写真で記録する
物の置き場所を決めたら、その状態を写真に撮って保存しておきます。どこに何を置くか忘れた時や、散らかった状態を元に戻す時の指標になります。
習慣化のための工夫
片付けを習慣にするためには、脳の特性に合わせた方法が必要です。
タイマーを活用する
「5分間だけ片付ける」とタイマーをセットして取り組みます。短時間なら集中力が続きやすく、達成感も得られます。時間が来たら途中でもやめて構いません。
ルーティンに組み込む
既存の習慣に片付けを紐付けます。例えば、夕食後にキッチンだけ片付ける、寝る前に床に落ちている物を拾う、といった具合です。
完璧を目指さない
「完全に片付いた状態」を目指すと、途中で挫折しやすくなります。「床に物が落ちていない」「テーブルの上が空いている」など、最低限のラインを設定し、そこをクリアできれば十分と考えます。
ご褒美システムを作る
片付けができたら、好きなお菓子を食べる、動画を見るなど、自分へのご褒美を設定します。脳は報酬に反応するため、習慣化に効果的です。
周囲の理解を得る
家族や同居人がいる場合、自分の特性を説明し、理解を求めることも大切です。
「片付けられないのは怠けているからではなく、脳の特性によるもの」と伝え、一緒に工夫を考えてもらえると、環境改善が進みやすくなります。
また、時には専門家の助けを借りることも有効です。整理収納アドバイザーの中には、発達障害の特性に配慮したサポートを提供している人もいます。
自分に合った方法を見つける
万人に効く片付け方法は存在しません。大切なのは、自分の脳の特性を理解し、それに合わせた環境を作ることです。
一般的な片付け本に書かれている方法が効かなくても、それはあなたのせいではありません。試行錯誤しながら、自分にとって無理のない方法を見つけていきましょう。
片付けられないことで自分を責める必要はありません。脳の特性を知り、それに対応した工夫をすることで、今よりも快適に過ごせる部屋を作ることは可能です。